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今日の当クリニックでの関節リウマチ治療に関して

関節リウマチの治療はここ10年間で劇的に進化しました。
1999年にメトトレキサート製剤(MTX)が慢性関節リウマチ(2002年までは良くなることがない、という意味も含めて“慢性”関節リウマチと言われていました)への保険適応(データに基づき厚生労働省がその病気に使用を許可して、保険診療を認めることを指します)が認められたことに続き、生物学的製剤(2003年レミケード、翌年のエンブレルなど)の使用も可能になったことが大きく影響しています。当院もこうしたリウマチ治療の進化にともない、常に効果的な治療法を患者様に受けていただけるよう日々努めております。

メトトレキサート製剤(MTX)の登場

そもそも、メトトレキサート製剤(MTX:同一成分でも抗がん剤としての名前はメソトレキセート)は、1980年代にリウマチ治療に用いる場合、使用に先立って肝臓のバイオプシー(生検)を行わないといけないと教科書に記載されていたほど、大きな副作用を伴うものと考えられていました。そのため、患者様の安全面を考慮し、慢性関節リウマチへの使用がためらわれていました(もともと抗がん剤として使われていたお薬であったため、リウマチ治療に用いること自体、医師としては判断に迷いました)。

しかし2002年にランセット(世界五大医学雑誌のひとつ)に掲載(参考1)された、関節リウマチ治療におけるメトトレキサート製剤(MTX)の記事により、メトトレキサート製剤(MTX)は、関節リウマチ破壊の抑制効果だけでなく、リウマチやリウマチ治療にともなって死亡する患者さんが、他の抗リウマチ薬(disease modifying anti-rheumatic drug:DMARD)と比べて格段に改善されていること、治療していない患者さんとの比較では約10倍もの改善がみられることが示されました。

メトトレキサート製剤(MTX)の安全性も、発売製薬メーカーの地道な努力、つまり副作用を毎年集積することで証明されるようになりました。実際当院の副作用報告をご覧いただいてわかるように、一番危惧される間質性肺炎が起きる頻度はごく稀で、肝機能障害は2%程度です。あえて言えば、食欲不振などの副作用が目立ちます。しかし安全性の面からでは、使用経験の豊富な医師のもとで服用を受けていればメトトレキサート製剤(MTX)の使用はほとんど心配ないことが理解されてきています。逆に、有効性については疼痛を軽減し、炎症を抑えるだけでなく関節破壊の進行抑制効果が認められています。現在では関節リウマチ治療の基本治療と位置付けられ、船舶の錨のように進行を止めるための薬剤「アンカードラック」と呼ばれるまでになりました。

私自身も東京大学での研修中に、メトトレキサート製剤(MTX)を投与されて白血球減少などの強い副作用がみられ、入院治療が必要になった患者さんを診察して以来、メトトレキサート製剤(MTX)の投与に不安がありました。しかしテキサス大学での知見から、帰国してすぐにメトトレキサート製剤(MTX)を山梨県立中央病院にて使用し、経験を積んでまいりました。

何回かの強い副作用があらわれた方々からの情報などを元に、このお薬の安全性の確認と治療薬として用いることのメリットを強く感じました。現在当院では、間質性肺炎、未治療のウイルス性肝炎、腎機能障害の強い方を除くと、年齢にかかわらずほぼ全員の関節リウマチの方に内服いただいております。

余談ですが、テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターでの私の恩師はPeter E. Lipsky という免疫学と関節リウマチの双方の権威(Journal of Immunology editor in chief、レミケード、New England Journal of Medicine のfirst author(参考2))です。当時のLipsky 教授の悩みは、少しでも調子が悪くてメトトレキサート製剤(MTX)の使用量が少ないと、他の専門医に患者さんが転院してしまうため、メトトレキサート製剤(MTX)の投与を大量に使わなければならない(参考3)とのことでした。

さて、その当時日本では、メトトレキサート製剤(MTX)の使用量が8mg/週までと限定されながらも、健康保険が適応されるようになったこと、合わせて後に関節リウマチの治療を根本から変えてしまうことになる生物学的製剤が使用できるようになりました。TNFαを抑える治療薬(レミケードやエンブレルなど)の他、炎症の原因であるIL6受容体を抑えるアクテムラが使用できるようになりました(参考4)。

生物学的製剤の有用性に関しては、すでに語りつくされていますし、私たちも10年の間に当院だけでものべ600名を超える方が投与を受け、疼痛の軽減や炎症の消失、ふつうの生活ができるようになるといったことが当然のようにみられるようになってきました。

実際にかかる医療費は高額ですが、その使用による身体障害への進行の抑制、仕事を継続できるメリットなどを考慮しても、疼痛をとり日常生活に支障がなくなるといった関節リウマチ患者さんに対する直接の利益だけでなく、社会的にも費用対効果の高い薬剤と考えて良いようになりました。

少量タクロリムスとメトトレキサート製剤の併用による利点

リウマチ治療の経験豊富な医師が、治療環境の整った施設と医療スタッフに恵まれれば、生物学的製剤とメトトレキサート製剤(MTX)で充分関節リウマチを克服することが出来ます(つまり当院です!)。しかし当院ではタクロリムスという免疫抑制剤を併用することで関節リウマチの治療にさらなる展開を見せています。

私とおなじ 筑波の“土”出身のタクロリムス

タクロリムスは身体の免疫機能を抑制するお薬で、元々は茨城県の筑波にある藤沢薬品の研究所の土から分離された微生物(ストレプトマイセス・ツクバエンシス)から分泌される、人類が手にすることのできた最強の免疫抑制剤です(参考5)。このお薬と同系統であるシクロスポリンと、外科医師の技術の進歩により、今日、拒絶反応に悩まされることなく安全に臓器移植ができるようになりました。

このシクロスポリンは、関節リウマチに対して有効(参考6)であることから、タクロリムスも移植に使うときの1/3程度の量での関節リウマチへの応用が可能となりました。お薬というものは、開発された時に分類された肩書が残るため、移植での免疫抑制剤(体重1㎏あたり0.20mg)ということで名前からかなり不安を感じる方が多いですが、もともと関節リウマチへの適応量(体重60kgの人で0.05mg/体重kgを一日1回)は移植の時の1/4程度であり、さらに当院では以下の理由からタクロリムスをさらに少量、1mgにまで投与量を減量し(0.017mg/体重kgを一日1回)MTXと併用する治療を行っています(ちなみにこちらは体重10kgあたり週に2mg程度を目安とします)。移植に使うときの1/10程度の使用量ですのでもちろん強い免疫抑制効果は期待できませんが なんらかの免疫調節と、薬剤耐性遺伝子の発現を抑制するなどの効果はあるようです。

少量タクロリムスをMTXに少量利用する10の理由

  • シクロスポリンの関節リウマチへの適応を獲得するための治療試験を当院で行っていた時、メトトレキサート製剤(MTX)と併用した群では高用量のシクロスポリンより低用量のほうが、効果が高く、副作用が少なかったこと
  • テキサス大学においてCD40Ligandという免疫反応の引き金となるT細胞表面のたんぱく質の発現が、低用量のシクロスポリンにて高用量と同様に抑制していたこと
  • 米国ではシクロスポリンを加えたDMARD併用療法が有効であるデータがあったこと
    しかし日本ではシクロスポリンは関節リウマチへの適応は許可されなかったこと
  • 2005年にタクロリムスが単独3mgにおいて関節リウマチの使用が許可されたこと
  • タクロリムスの開発をした製薬メーカーの米国でのメトトレキサート製剤(MTX)との併用開発試験において、1mgのほうが、3mgより有効性が高いとのデータがあったこと
  • タクロリムスはもともと強い副作用が少ないこと
  • タクロリムスは少量では高血圧、腎機能障害、糖尿病の誘発、間質性肺炎の誘発などの副作用がより少なくなることが判明したこと
  • 薬剤費が高かったため(現在は市販後調査などもきっちり行う後発品メーカーが販売しており薬価は下がっていますが)3mgでは高額になりすぎること
  • 1日量1mg以下では測定可能な血中濃度まで薬剤濃度があがらないこと
  • 薬剤耐性を引き起こすp-糖蛋白の発現をおさえること

以上の理由などから、少量のタクロリムスをメトトレキサート製剤(MTX)と併用する治療を2005年から次第に開始しました。学会での報告(参考7)などを経て、その副作用の少なさ、単独メトトレキサート製剤(MTX)よりも、タクロリムスとの併用でメトトレキサート製剤(MTX)の使用量を抑えられること、効果減弱も少ないこと、経時的に骨および軟骨破壊の改善する方が増えてきたことにより、現在では患者さんの80%がこの少量タクロリムスとメトトレキサート製剤(MTX)併用を行っています。

2012年の公知申請により、日本でもメトトレキサート製剤(MTX)の使用量が16mg/週まで増えましたが、当院ではほとんどの方がメトトレキサート製剤(MTX)の使用量は12 mg/週以内で、関節破壊や炎症のない状態となっています。生物学的製剤を使われている方が、生物学的製剤による治療を変更した場合でも、メトトレキサート製剤(MTX)の単独投与より、少量のタクロリムスと併用をされている患者さんの治療が良好に行えています。

たしかに生物学的製剤により、多くの方が疼痛から解放され、普通の生活ができるようになったことも事実ですが、医療費の高騰などの観点、さらに近年の報告では今までのリウマチ治療薬を併用することで、かなりの方が生物学的製剤と同様の効果が期待できる(参考8)との報告がされています。

少量タクロリムスとメトトレキサート製剤(MTX)の併用が、後発品(ジェネリック)の登場でさらに安価(一般的な使用量で院内処方、後発品使用、3割負担の場合で自己負担4,655円)となったこともあわせますと、少量タクロリムスとメトトレキサート製剤(MTX)の併用が私たちの推進するべき日本での標準治療と考え、2014年の学会にて防衛医科大学の医師グループと共同で発表することとなりました(参考9)。

諸外国で、関節リウマチに対してタクロリムスの使用が許可されている国は、カナダ・香港など数か国に限定されているため、このタクロリムス併用療法の恩恵にあずかれる国は日本以外にあまりありません。生物学的製剤全盛の今では、すでに1990年代に報告されていた併用療法の有用性がEULARのガイドライン(参考10)に記載されたにすぎません。当院に通院されている方はこの副作用の少ない治療の恩恵を受けていますが、違いはお薬の違いではなく、お薬を併用するかしないかの差にすぎません。

保険適応もあり、かつ後発品への変更によってリウマチ治療効果の減弱が見られない患者さんについては、少量タクロリムスとメトトレキサート製剤(MTX)の併用療法がより安全で、普通の生活を続けることへの手助けになると考えています。もちろん併用療法でリウマチに対する効果が乏しい方には、積極的に生物学的製剤を導入して、関節リウマチの炎症の出鼻をくじき、状態が安定したところでの少量タクロリムスとメトトレキサート製剤(MTX)の併用療法への切り替えを検討していきます。

副腎皮質ステロイドに関して

悪性リウマチに代表される、血管に炎症の起きる状態を合併する疾患(一部の膠原病もおなじ血管炎をベースに発症します)の患者さんは命に係わる病態ですので、かならずステロイドや免疫抑制剤を使わないとなりません。もちろん病気の勢いが免疫抑制剤や生物学的製剤で安定してきた場合、減量中止もあり得ますが、血管炎のある方は副腎皮質ホルモンを使うことは必須です。

しかし、こういった稀な病態(活動性の間質性肺炎、心臓、腎臓への障害)を持っている方はリウマチ患者さんの10%もいません。それ以外の一般的な関節リウマチの方には当院ではステロイドを使うことはあまりなく、激しい疼痛、仕事を全く休めないなどの理由で開始したとしても、当院での治療でほとんどの方が維持使用量は2mg以下、当院通院されている関節リウマチの方のうち20%程度の方にしか服用していません。

最近は少量タクロリムスとメトトレキサート製剤(MTX)の併用療法により、80%の方は4か月以内に症状が安定しますので、ますます使用をすることがなくなりました。

しかし、高齢にて発症する関節リウマチに類似するリウマチ性多発性筋痛(昨年の欧米の学会にてリウマチ性多発性筋痛症候群(参考11)という概念が提唱され、さらに研究が進んでいます)においては ステロイドが特効薬であり、さらに副腎機能不全を潜在的に合併することから、副腎皮質ホルモンを骨そしょう症、糖尿病などに注意しながら使用する必要があります。

以上、当院での治療はまったく普通のリウマチ治療薬を併用し、通常より少なめに投与することで有効性が上がっています。けっして怪しい治療を行っているわけでなく、その副作用もこのホームページで公開しているように、それぞれのお薬を単独で使用した場合より少ないのが現実です。

関節リウマチはある程度早期に治療開始できれば治療可能です。ただ、お薬の減量や中止がすぐできるわけではありません。もともとは10年間で20%の方は寝たきりになっていた病気であることを忘れないでください。症状が安定しても少なくとも2年程度の寛解状態(症状が落ち着いている状態)を経て投薬の減量を計画します。もちろん減量、中止した場合も半年程度であれば、再発しても骨破壊はあまり進まないとのデータもありますが、やはり自分の診察させていただいている方が悪くなるのを見るのは悲しいものです。

リウマチ性多発性筋痛症候群、乾癬性関節炎、回帰性リウマチなど関節リウマチ近縁の炎症性関節障害に関しては、順次当院での治療方針を掲載します。

参考

  1. Choi HK, Hernan MA, Seeger JD, Wolfe F. et al Methotrexate and mortality in patients with rheumatoid arthritis: prospective study. Lancet. 2002; 359(9313): 1173-1177
  2. Infliximab and methotrexate in the treatment of rheumatoid arthritis Lipsky PE,  Desiree M.F.M van der Heijide, FM et al N Engl J Med 2000; 343:1594-1602
    http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM200011303432202
  3. Furst DE, Kohnke R, Burmeister LF, Kohler J. et al Increasing methotrexate effect with increasing dose in the treatment of resistant rheumatoid arthritis. J.Rheumatol 1989; 16:313-20
  4. http://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_TNF_140203.pdf
  5. ウィキペディア: タクロリムス
  6. シクロスポリンAによる慢性関節リウマチの治療
    吉野谷定美 山本一彦 宮本昭正 アレルギー 36(8), 759, 1987
    http://ci.nii.ac.jp/naid/110002415365
  7. http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/201102223650537890
    早期RAに対する少量タクロリムス(LD-Tac)とメソトレキセート製剤(MTX)併用の有用性
    第55回日本リウマチ学会総会・学術集会 2011年
  8. Eriksson JK. Neovius M. Bratt J. et al Biological vs conventional combination treatment and work loss in early rheumatoid arthritis JAMA Intern Med. 2013;173(15) 1407-1414
    http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1726981
  9. 関節リウマチに対する、メトトレキサートと少量タクロリムス(Low-dose tacrolimus:LD-Tacの同時開始療法の有用性 中西貴士 他 第58回日本リウマチ学会総会・学術集会 2014年
  10. http://ard.bmj.com/content/73/3/492.full.pdf
  11. Kermani TA, Warrington KJ. Polymyalgia rheumatic Lancet 2013 Jan5, 381(9860):28
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23051717